音楽業界を考える

 音楽業界の不況や苦境という話を聞く。

 確かに音楽パッケージだけの数字をみると、音楽配信や映像付きパッケージは伸びているものの、全体としては徐々にだが縮小している(日本レコード協会の統計データを参照)。違法ダウンロードが原因などという意見が出てインパクトを与える(確かにそれも原因の一つだろう)が、エイベックス・グループのIR情報などをみるとここ数年で音楽パッケージや映像コンテンツとか、CD・DVDやネット配信、それにライブ・動画配信・マーチャンダイジングなどの販売ルートが劇的に変化していること、お互いを区別しにくくなっていること、また知られていない所でどこかのサービスの売上に貢献していたりと、音楽パッケージとしての数字がまとめにくくなっているのだろう。

 100万セールス、ミリオンセラーという言葉があり、ピークに比べ最近はミリオンセラーが出にくくなったと言われるが、これまでレコードやCD販売数を見ればヒットしているかという事だったものが、ヒットの指標では無くなったという事でもある。

 

 販売方法について、今後どうなっていくのか、どういうルールを決めていくのかという事も興味があるが、そもそも私たちが音楽コンテンツを聞きたい、お金を払いたいと思うにはどうすればいいかについて考えてみる。

 自分に当てはめると、かつてはどんなアーティストがどんな曲を出しているのか、テレビやラジオの音楽番組や音楽雑誌から情報を得ていた。その次にドラマやCM、映画の主題歌などで知るようになり、カラオケで誰かが歌うからそれを覚えておこうと聞いていた。そしてそのアーティストにハマって新曲を続けて買ったり、ライブに行ったりしてお金を支払うようになっていたと思う。

 今は、CMや映画もまだあるものの、動画サイトで気になった映像に用いられた曲だったり、嵐やAKB48のように、バラエティ番組で「おもしろいな」と思ったり、ドラマで「上手い俳優だな」と思ったりした人の曲だから、聞いてみるという感じがする。いい曲だからと曲から入ったのではなく、映像や歌い手が魅力で曲を聴いたというパターンだった。

 私に限ったことなので全てがそうではないと思います。でもこの流れを考えると、

かつて: 音楽番組で曲やアーティストを知る → 新曲を買う → ライブに行く
今   : ドラマで人のファンになる → ライブに行く → 繰り返し新曲を買う

という感じでしょうか。AKB48を見てると曲よりも歌い手に対する想いをこめて、曲にお金を支払っている。これはニコニコ動画でも、曲は初音ミクの曲を基本的に誰でも歌って動画投稿しているが、その中で何人かの歌い手さんに人気が集まっている感じに似ている。

 

 慶応大学システムデザイン・マネジメント研究科に在籍していた時、「翼をください」の村井邦彦氏の特別講義が行われ、YMOや青山テルマなどをプロデュースした川添象郎氏など多くの音楽関係者が聴講として来ていた。その時は、著作権に関する問題や違法コピーの問題など音楽業界関係者のピリピリした状況が伝わってくるものだった。その時、印象に残ったのは川添氏の「テレビゲームなどのデジタルな電子音を聴く機会が多くなり、生の楽器の音を聴く機会が少なくなった。」と言われたことで、川添氏は青山テルマの「そばにいるね」は生演奏にもこだわって作ったという話も聞いた。

 思えば、1990年代のカラオケブームの時は、テレビの音楽番組でもCDで聴くのと同じ音や強さで、歌もそんな感じだった。しかし、1980年代の音楽番組は生オーケストラが演奏して、毎週アレンジが変わっていたし、歌手も間違えたり、転んだりいろんな表情を見せていた気がする。アイドルが歌詞を間違えたときの仕草でファンになったこともあったし、いろんなアレンジを歌いこなす所に歌手の凄さを感じたりもした。

 いまでもライブに行けばそれを感じることができるが、テレビでやらなければそれを知ることができない。そして今、テレビでは歌う事で魅力を伝えるのでなく、トークやバラエティ、演技で魅力を伝える感じになっている。逆に動画サイトで素人がそれをやり、いきなり全世界でヒットしたりもしている。

 テレビやマスメディアで生演奏、生歌を伝える所にヒントがあるのかもしれない。